【艦これ】無言提督と娘たち【二次創作小説】

艦隊これくしょん・艦これ の二次創作小説を投稿します。

第二話 「です!」

「・・・ここが鎮守府か」

 

俺は停泊場から徒歩で移動し、

3km程離れた場所の

大きな鉄柵の扉の前についた。

 

柵の隙間から見える景色だけでも

十分わかる程、建物が大きい。

 

流石、艦娘たちを100人以上住ませられる

建物といった所か。

いや、一種の町と言っても過言ではないだろう。

 

「い、インターホンとか無いのかな?」

 

扉の周りを見てみるが

そのような物が見当たらない。

 

「・・・勝手に入っちゃいますよ~?」

 

いいんだよな。

俺、提督なんだし。

 

その前に、鍵開いてるのかな?

 

まあ、鍵とか軍服とか軍刀とかは

俺の部屋になる場所に置いてあるって言ってたし

開いてなきゃおかしいよなぁ。

 

「おじゃましま~す...」

 

俺は恐る恐る扉を開けた。

 

ギギ~ッと

鉄が軋むような音が鳴ると同時に……

 

『侵入者発見! 侵入者発見!』

 

大音量のブザー音とともに

機械音声の警告が鳴り響く。

 

「・・・えっ?」

 

そんな光景を前に俺は、ただポカーンと

していることしかできなかった。

 

しばらくすると

建物の方から人影がこちらへ

向かってくるのが見えた。

 

多分、俺が配属される前に

ココを管理していた人だろう。

でも、あれ? 小さくね?

 

ヤバイ、誤解されて通報されたらどうしよう。

絶対に後で誤解は解けるだろうが

絶対に笑いものになる。

目立つのを嫌う俺にとって一番ツライ...

でも、あれ? 人影小さくね?

 

(……な、なんとしても逃げなくては)

俺は180°回転して走り去ろうとしたが。

 

「こ、こら~! 逃げちゃダメなのです!」

 

「げっ、人影に気づくのが遅かったか...」

 

トテトテという可愛らしい擬音が似合いそうな走りで、

小さい人影がやって来たのだが。

 

「あっ! ……うぅ、痛いのです」

 

おもいっきし、ズコっとコケた。

 

その様子をボケっと見てると、ゆったりと立ち上がり、

膝や服についた砂を手で払って……

まるで、先程の事はなかったかのように。

 

「ご、ごほん! 

ココに来てから侵入者なんて初めてなのです。

なんでこんな事をしたのか不思議なのです!」

 

人影の正体は小さな女の子だった。

まあ、女の子が一人でこんなところ居るわけがないので

多分、艦娘なのだろう。

 

「あ、あ~......」

 

「なんか言うのです!」

 

・・・うん、そりゃ話しかけてくるよな。

 

どうしよう、

どうしようどうしようどうしよう

どうしようどうしようどうしよう

どうしようどうしようどうしよう

 

人と話すのが俺にとって、人(正確には艦娘だが)と

話すのは、150%無理な話だ。

でも、話さないことには話が進まない。

はぁ……覚悟を決めるか。

 

「あの…… え~…… うぅ……」

 

やはり言葉が詰まる。

これがコミュ症の性<さが>か...

 

諦めかけていたその時、

ポケットに入っているものを思い出した。

 

あ、これ見せればいいじゃん。

まあ、さっき貰ったのコピーだけど

多分大丈夫だろう。

 

俺はポケットからしわくちゃになりかけの

紙を取り出して広げてみせた。

 

「あ、これってですね。……証明書?

えっ! 提督さんだったのですか?!」

 

【提督】「……」

 

コクリ、と頷く。

 

「ほ、本当に申し訳ないのです!

まさか提督さんが【裏口】から

入ってくるなんて

思っていなかったのです...」

 

ん? 今なんと?

 

「道なりに真っ直ぐコチラに来れば

絶対に正面から入るはずなのに……

なぜ裏口に来たのか不思議なのです」

 

……オブラートに包んで罵倒された。

 

「…………」

 

「……さあ、早く入るのです。

っと、その前に自己紹介忘れていたのです」

 

あ、そういえばこの子の名前聞いてなかった。

 

「私の名前は電と書いて<いなづま>です!

これからよろしくお願いするのです。

……面倒は見てあげるから大丈夫なのです」

 

「う・・・・・・・・」

 

子供にめっちゃ心配されてるぅ!

一生の不覚……

 

……人は第一印象で決まるというが、

俺の第一印象... 最悪になったな。

 

はぁ~、この先が不安だ。

第一話 「提督さん」

吾輩は、少佐である。名前はまだ無い。
どこで生れたか、さっぱり分からない。
ただ、優しい笑顔のおっさんに拾われた事は
覚えている。

 

と、某小説のオマージュをしたわけだが、
本当に、俺には名前がないのだ。

 

赤ん坊の頃に親を亡くし、海軍のおっさんに
拾われた後、海軍の兵として生きてきた。

 

誕生した事実さえ存在しない俺は、
大日本帝国にとって、使い勝手のいい駒
なのだろう。

 

まあ、実際は”仮の名前”があるのだが……
それは、俺・おっさん・軍の上層部しか
知らない。要するに、非匿名(ひとくめい)だ。

 

そんな生活を送ってきた弊害か、
俺は極度の人見知りである。

 

育ての親である、おっさんとは自然に喋れるが、
見ず知らずの人となると、怖くて声が出ない。

 

そんな俺は、顔を”狐の面”で覆う事で、
多少は乗り越えている。
(勿論、軍には許可を得た)

 


■■■

 


今日は俺の配属場所が決まる
記念すべき日だ。

 

海軍の皆が、礼服(フロックコート)に身を包み、
緊張の趣を見せている。

 

この場所で、今までの苦労が結果として実を結ぶ。
結ぶ……といいなぁ。

 

そんな風に、ボケっと考えていると、
ヒゲッ面が妙に似合う、おっさんがやって来た。
がたいのいい体格に、黒いフロックコート
妙な威圧感を放っている。が……

 

「よう、坊主! おいおい、どうした?
元気ねぇじゃね~か! ほら、シャキッとしろ
シャキッと! 今日は特別な日なんだからよ」

 

性格や口調がこうも和やかだと、せっかくの
威圧感も意味をなくすというものだ。

 

おっさんの、適当且つ暑苦しい言葉に
苦笑いで返しつつ受け答える。

 

「そ、そんなこと言ったって...
緊張と不安ぐらいしますよ上官殿」

 

そう、このおっさんは俺の上官。

そして育ての親だ。

 

それと言っておくが、
俺は坊主と言われる年齢ではない。
一応、26歳だ。

 

まあ、親にとっては、子はいつまでも子供に
見えるらしいし、おっさんも同じなのだろう。

 

「おめぇがショゲていると
いい結果もポ~ンと逃げていくぜ?
今は結果を気にせずに
リラックスしときゃあいいんだよ」

 

「そ、そうですね。上官殿の言うとおりです」

 

「だろ~? 俺はよく稀に、イイ事言うからな」

 

(よくまれにって
あまり言ってないってことだよな……)


「でも、僕... やっぱ不安なんです。
次の所属の人たちと仲良く出来そうな所か……
あまり話さずに済むかどうかとか……」

 

俺の言葉に、おっさんは顔をしかめ、軽くうなった後に
小声で俺に話しかけた。

 

「お前まだ人見知りが治ってなかったのか……
今日の発表の時どうすんだ?
確実に、配属場所の上官と話すと思うぞ?」

 

「極力、話さなければいいことです。それに、
俺には別の顔がありますし」

 

そういいながら俺は、コートの内に隠しておいた
狐の面を取り出し、おっさんに見せた。

 

「はぁ…… もし所属人数が”千人”を越えるような部署に
配属したら、どうするんだお前?」

 

「潔く”自害”します」

 

凄みを利かせた声で俺が言うと、おっさんも
「お、おう」としか言えなくなり、かなり
困惑の表情が見て取れた。

 

「即答で怖いこと言ったな。
……まあ、さっきのはたとえ話に過ぎない。
上と話ししてお前にピッタリのところにしといたさ♪」

 

「じょ、じょうかんどのぉ~!
ありがとうございます!
ありがとうございます!
ありがとうございますぅ~!!!」

 

なんて人だ。
息子(仮)の為にそこまでするとは。
まさにバカ親だな。

 

だが助かった。
これで安静に仕事ができるかな。
俺はゆったりまったりしていたいのだ。
他人と喋らずにな。

 

そして、そうこうしているうちに、
3時の鐘が鳴り響いた。
それは、発表が開始される合図。
俺とおっさんは、慌てて会場へと向かった。

 


■■■

 


会場は何故か、柱島泊地の停泊場。
そこにパイプ椅子がズラ~っと並んでいる。
まるで入学式をやるような光景だ。

 

そのパイプ椅子達の前には
各所属の上官たち専用の席が設けられていた。

 

・・・あ、おっさんだ。
おっさんを発見した。

 

おっさんが詫びることなく座っていく。
そしてめっちゃ他の上官たちに怒られてる。
まあ、いつものことか。

 

おっといけない、俺も早く席につかなければ。


■■■


会場に居た、”俺含む”全員の発表が終わると、おっさんが
未だにショゲている、俺の側によってきた。

 

「どうした~?
そんなにやりたくないのか~?」

 

「い、いえ。 そうではないのですが」

 

「じゃあ、いいじゃねぇか」

 

「ですが、その~」

 

子供のようにすねている俺を見かねて、

おっさんが俺の背中をバシバシ叩きながら。

 

「ったく、男らしくねぇな。
決まったもんはしょうがねぇんだから
ショゲてんじゃねぇ~よ!」

 

「べ、別に嫌というわけではないのですが…
自分に務まるかどうか不安で」

 

尚も、弱気な発言をする俺に、今度は優しく。

 

「大丈夫だ。なんたって俺が推薦してやったんだ。
俺の目が濁ってなけりゃ……
お前は、あの中で一番”アレ”に向いている」

 

「じょ、上官殿を疑っているわけではないのですが……
いくらなんでも僕じゃ、”若すぎ”ませんか・・・?
しかも、まだ”中佐”にもなってませんし!?」

 

「そんなの関係ないだろ。
この世界は才能のある奴が上に立っていくんだ。
実力主義だよ、ジツリョクシュギ!」

 

そうこう話している間に、あたりの風景を見て、
ある仮説が頭に浮かんだ。

 

「──もしかして、会場が”ここ”なのも、
やはり、関係が」

 

「そりゃそうだろ。”ここ”はお前の仕事場。
一大発表は、お前の配属場所だからな」

 

おっさんが、食い気味にそう答えた。
その言葉に、俺は更に絶望感をつのらせ。

 

「やっぱそうなのか……」

 

「まあ、頑張りたまえ”殊成(ことなし)提督”!」

 

「・・・はい」

 

こうして俺は
”提督”となった。
いや、なってしまった。

 

どうする……辞めるか?
逃げるか? 隠れるか?
消えるか? 自害するか?

 

・・・いや、頑張ろう。
とりあえず、一週間様子見でやっておこうかな。
もしダメだったら、自ら除隊してやろう。